食料不足支援政策に資する食料不安と栄養摂取の乖離構造の社会心理的メカニズム解明

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- 研究責任者
片桐 諒子 教授 / Ryoko KATAGIRI
- 所属
千葉大学 大学院情報学研究院
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- 研究責任者
食料不安(Food Insecurity)とは、経済的要因や資源不足により十分かつ適切な食料を得られない状況を指す。単に食料の不足だけでなく、その前段階での心理的不安も含む多面的な概念であり、早期の食料支援につなげる重要な指標とされる。国際的にはFAOが提唱するFIES(Food Insecurity Experience Scale)がSDGs目標2の達成指標として用いられているが、日本での調査は乏しく実態把握や要因解明は進んでいない。申請者は国内でFIESを活用し、食料不安の要因を明らかにする研究を展開してきた。これまでに社会経済的要因、孤立、雇用状態との関連に加え、不安や産後うつとの強い関連を見出している。しかし、主観的な不安と実際の栄養摂取量の関係性の実態は未解明である。したがって、心理的・社会的・行動経済的メカニズムを統合的に捉え、FIESを効果的に食糧支援ツールとして活用するには、乖離の背景を理論的に整理し類型化することが求められる。
本研究では、この乖離を理解するために、社会経済因子(孤立や経済的不安定性)、精神的因子(ストレスや幸福感)、生活環境や食へのアクセスといった多層的要因を分析する。特に「摂取は足りているが強い不安を抱く層」と「摂取不足でありながら不安を訴えない層」の把握に注目し、適切な食糧支援対象の識別を目指すほか、多様な要因を加えた場合の食料不安の予測精度の向上を目指す。加えて不安感の軽減において「食の幸福」が果たす役割にも注目する。栄養摂取量、心理的背景、経済状況を統合的に捉えることで、真に支援が必要な層の同定とともに、限られた資源の中での「より幸せな食」と不安の軽減への影響を検討する。以上を通じて、FIESを自治体等でのアセスメントツールとして将来的に実用化する場合に効果的な介入につなげるための根拠を構築することが本研究の目的である。
