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総合知研究支援プログラム(J-PEAKS)

早老症の多層的解析による老化と疾患の病態解明

前澤 善朗
  • 研究責任者

    前澤 善朗 講師 / Yoshiro MAEZAWA

  • 所属

    千葉大学 大学院医学研究院

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    ORCID ID

生活習慣病やがんなどの疾患が加齢とともに増加する機序はわかっていません。我々は、種々の老化症状が促進される代表的な遺伝性早老症である、Werner症候群に着目しています。この疾患の患者は正常に成長発育しますが、30歳代以降に両側の白内障、皮膚の萎縮や白髪や禿頭などの早期老化症状をきたします。また、内臓脂肪蓄積、糖尿病、動脈硬化、骨粗鬆症などの加齢関連疾患を合併し、高率にがんを発症します。このことから、ウェルナー症候群はヒト老化のモデル病態と考えられており、我々はこの病気の解析を通じてヒト老化の病態に迫りたい、と思っています。

Werner症候群はDNA helicase、WRN遺伝子の変異により発症します。この分子はDNAの複製、翻訳、mRNAの転写、テロメアの保護、DNA傷害時の修復やエピゲノム制御など、多彩なメカニズムに関与しています。一方でWRN遺伝子のノックアウト(KO)マウスは全く早期老化症状を示さないことがわかっており、また患者由来細胞も早期の細胞老化をきたして増殖停止することから培養が難しく、適切な研究マテリアルが存在しないことが老化のメカニズム解明の大きな障壁となってきました。

そこで我々は、世界初のWerner症候群霊長類モデルとして、WRN KOマーモセットを開発しています。WRN KOマウスが老化しない一つの要因は、マウスが長いテロメアを持つためと考えられており、ヒトと同様のテロメア長のマーモセットであれば、老化病態の再現に適切なのではないかと考えられたためです。さらに、Werner症候群の患者由来線維芽細胞や血液、これらから樹立した疾患iPS 細胞(WS特異的iPS細胞)を解析します。このような研究を通じて、老化促進病態のメカニズムを解明します。

WRN遺伝子をKOしたマーモセットは、2個体を世界で初めて作ることに成功しました。老化徴候の出現について経過観察しているところです。また、WS特異的iPS細胞を樹立し、間葉系幹細胞や脂肪細胞、血管壁細胞、マクロファージなど、さまざまな細胞への分化誘導法を確立しています。これらの早期老化を呈する細胞を、プロテオーム、メタボロームなどのオミックス手法を用いて解析し、老化に関与するパスウェイ、老化を抑制あるいは促進する遺伝子を同定します。さらに老化を制御する遺伝子をターゲットとした治療薬の開発にも挑戦します。このような薬剤は、早老症マーモセットに投与し、老化が抑制されるか否か前臨床試験も行いたいと考えています。 このような研究から、この老化促進疾患に対する革新的な新規治療法開発につなげたいと思います。さらに、老化のメカニズムを明らかにすることで、がん、動脈硬化、糖尿病や骨粗鬆症といった加齢関連疾患の背景にある、「老化病態」を解明し、これら疾患のブレークスルーとなるような治療法開発に挑戦します。

早老症の多層的解析による老化と疾患の病態解明
※出典:ウェルナー症候群 国際レジストリ(ワシントン大学)15歳と48歳
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