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次世代研究インキュベータ

老化と再生研究

幹細胞老化の病態解明と新規再生医療

――老化を理解し「健康的な」老化に貢献する
研究キーワード:老化、幹細胞、iPS細胞、再生医療、疾患モデル            

超高齢社会の進展に伴い、動脈硬化、糖尿病とその合併症、悪性腫瘍など、加齢に伴う疾患の増大が顕在化し、社会的に大きな問題となっている。加齢は時間経過に伴う不可逆的な現象であり、容姿などの変化だけでなく、ミクロレベルでの細胞老化も進行していることが明らかになってきた。この老化した細胞が臓器に蓄積して機能低下を引き起し、加齢による病気にかかりやすくさせるのである。

近年、科学者らによる精力的な研究により、この加齢に伴う疾患には「幹細胞の老化」が関与していることがわかってきた。様々な細胞に分化する幹細胞は、体の維持に重要な役割を果たしているが、老化した幹細胞は各組織に細胞を供給できなくなり、身体の老化を進展させる。しかしながら、幹細胞がどのように老化し能力を失っていくのか、未だその全容はよくわかっていない。つまり、幹細胞の老化現象を理解し、適切にコントロールする方法を知ることができれば、老化を防止あるいは若返ることができ、病気にかからずに健康に老いることが可能となるのだ。

このような背景のもと、本研究プロジェクトの推進責任者である髙山は、加齢関連疾患における幹細胞老化の病態解明や、ブレークスルーとなる予防法・治療法の開発を目指し、老化、再生、iPS細胞技術、血液、整形外科、形成外科、バイオインフォマティックスなど多様な背景を持つ基礎研究者・臨床医らが結集した研究拠点を組織した。

老化関連疾患を理解し、新規治療法の確立へ

本研究拠点では、①老化関連疾患メカニズム研究グループ、②再生医療グループ、③疾患オルガノイドグループの3グループから構成され、以下の研究プロジェクトを進行している。

① 千葉大学医学研究院の前澤ら率いる老化関連疾患メカニズム研究グループでは、本大学附属病院老年内科と血液内科と協力し、老化の徴候が実際の年齢よりも早く出現し、進行するように見える疾患である早老症の病態解明のため、幹細胞の老化に伴う変化を解析しバイオマーカーや創薬の導出を目指している。また、骨髄の中にある造血幹細胞を由来とするがんである造血器腫瘍の発症解明のため、腫瘍化のメカニズムを解析し新たな治療法の開発に挑戦している。糖尿病患者でみられる腎臓病、糖尿病腎症においては、周皮細胞 (毛細血管をとりまくように存在し、血管や神経の成熟・安定化・維持修復に役立つと考えられている間葉系幹細胞の一種)の老化メカニズムを遺伝子解析し、進行メカニズムを解明するとともに、抑制剤の開発を行っている。

② 志賀ら率いる再生医療グループでは、寝たきりの生活や生活習慣病で増加する難治性皮膚潰瘍や骨折の治療法へ向けて、ヒトiPS細胞から作製した人工血小板および間葉系ストローマ細胞を用いた細胞療法の開発に取り組んでいる。また、造血器腫瘍の治療に応用できる造血幹細胞の生産技術および治療法の研究を進めている。

③ 髙山ら率いる疾患オルガノイドグループでは、早老症の患者由来の疾患iPS細胞を用いてオルガノイド (ミニ臓器) 作製を作製、早老症でみられる動脈硬化や加齢性腎変性疾患の進行過程を解明し、新規の抗老化薬剤の開発を目指している。

 

研究推進責任者の髙山は「それぞれの専門家の知識、技術、意見をリアルタイムで反映できるように、各研究グループから、助教、学生、技術員をイノベーション再生医学研究室に派遣して頂き、本プロジェクト達成のための専属研究チームを形成して研究に取り組んでいます。本研究グループ構成員全員が臨床の場にも従事しており、常に臨床への還元を見据えた研究を心がけるようにしています。」と自身の研究のベッドサイドへの還元に対する意気込みを語る。

Members

推進責任者
研究者名 役職名 専門分野
髙山 直也 准教授(医学研究院) 幹細胞生物学、造血器腫瘍
中核推進者(学内研究グループ構成員)
研究者名 役職名 専門分野
前澤 善朗 講師(医学研究院) 糖尿病血管障害、代謝、老年医学
加藤 尚也 助教(医学部附属病院) 老年医学、糖尿病学
志賀 康浩 准教授(医学研究院) 整形外科
小坂 健太朗 特任助教(医学研究院) 形成外科