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次世代研究インキュベータ

心理学・精神科学のデジタルメンタルヘルス研究拠点

日本の認知行動療法を成長させる

研究キーワード:精神医学、心理学、認知行動療法

――不安症やうつ病の症状を軽減できるよう、職場や学校やオンラインで、 メンタルヘルスケアの機会を開く。

Science Photo Library / Alamy Stock Photo

日本では、生涯に一度はメンタルヘルス問題に直面する人が、4人に1人は存在する。このため、不安に関連する疾病の治療や予防を目指す取り組みに多大な労力が注がれている。

 

社交不安症(社交不安障害)は広くみられる症状であり、社交場面に対して激しい恐怖を感じるという特徴がある。薬物依存、うつ病、自殺行動などを引き起こすこともある。

 

社交不安症に対する有効な治療法のうち、医療関係者、政策決定者、患者等、多くの人々に知られているものとして、認知行動療法(CBT)がある。CBTでは後ろ向きな考えや否定的な行動パターンを変化させ、子どもにとっては不安や不確実性の恐怖を克服する支えとなり、若者にとってはうつや怒りの感情をコントロールできる力になり、大人にとってはストレスとなる様々な経験に対処する助けとなる。

日本初の資格取得者向けトレーニングコース

千葉大学子どものこころの発達教育研究センターと千葉大学医学部附属病院認知行動療法センターを率いる教授の清水栄司は、「目下、CBT専門家の育成に積極的に取り組んでいるところですが、CBTの人的リソースは、日本ではまだまだ不十分です」と話す。

千葉大学および同医学部附属病院では、こうした問題に積極的に取り組んでいる。千葉認知行動療法研修システム(Chiba-IAPT)は、英国のモデルを日本向けに手直ししたもので、2010年に開始され、日本初の資格取得者向けトレーニングコースとなった。

清水は、「文化の違いのみならず、個人の違いも反映させて治療方針に調整を加えることが肝要です」と指摘する。

清水が率いるチームでは、新たなオーダーメイド治療介入法の開発が進められており、その一つであるインターネットを用いた治療法(iCBT)は、低コストで使いやすく、希望があれば匿名で治療を受けることも可能だ。

同チームでは2017年、薬物抵抗性不眠症患者向けiCBTの研究プロトコルを発表した。また、抑うつ症状を軽減するために使える簡易な5分間のプログラムも作成している。

清水は幅広い研究に従事しており、その一環として2015年、心理療法中の脳活動の変化を視覚化する初の研究にも加わっている。この研究では、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を使用し、左後頭頂葉が認知の再構成に重要な役割を果たしていることが示された。認知の再構成とは、既存の信念に挑戦できるようにするプロセスであり、CBTでも使用されている。

さらに2016年には、清水らは、抗うつ剤治療が有効でない患者の社交不安を減らすことにCBTが有用であることを示した。政府は、専門家によるCBT治療に対するニーズが増大していることに対応するため、2018年末に公認心理師の認定を開始している。健康保険制度も新しくなり、うつ病患者や不安障害患者、神経性過食症患者に対して医師が行ったCBT治療が保険適用になった。

小学校においても、CBTに基づく不安予防プログラムを導入する動きがみられる。

2018年に子どものこころの発達教育研究センター特任助教の浦尾悠子は、清水の監修のもと、10~12歳の子供を対象とした「勇者の旅」不安予防プログラムの有効性が検証した。同プログラムでは、授業時間を使って45分のセッションを10回実施する。不安について理解を深め、感情をモニターし、自己表現スキルを鍛えて社会的なストレスを軽減することが目的だ。

今後の追跡調査も計画されているが、予備調査では、子どもたちが自身の不安レベルをコントロールするために、同プログラムが効果的であるとの結果が示されている。

「10年後、日本の全ての子どもたちがこのプログラムを利用することができればと願っています」(清水)。

CHIBA RESEARCH 2020より)

Members

推進責任者
研究者名 役職名 専門分野
清水 栄司 センター長(子どものこころの発達教育研究センター) / 教授(医学研究院) 認知行動療法、認知行動生理学
中核推進者(学内研究グループ構成員)
研究者名 役職名 専門分野
木村 英司 教授(人文科学研究院) 知覚心理学
一川 誠 教授(人文科学研究院) 認知心理学
磯部 智加衣 准教授(人文科学研究院) 社会心理学
岩田 美保 教授(教育学部) 教育心理学、発達心理学
砂上 史子 教授(教育学部) 幼児教育、発達心理学
中道 圭人 准教授(教育学部) 幼児教育、発達心理学
新津 富央 講師(医学研究院) 精神医学
東本 愛香 特任講師(社会精神保健教育研究センター) 犯罪心理学
平野 好幸 教授(子どものこころの発達教育研究センター) 認知行動脳科学
大渓 俊幸 准教授(総合安全衛生管理機構) 精神保健学
吉村 健佑 特任教授(医学部附属病院) 医療情報学、医療経済学、精神保健学

研究内容

プレスリリース

2019年6月12日 スマートフォンアプリを利用した研究協力者を募集します
~うつ不安症状を自分で振り返るアプリを開発~