希少・難治性疾患の治療
難治性疾患の患者に希望をもたらす
――分野横断型の研究ネットワークにより希少・難治性疾患に対する治療法を開発する
研究キーワード:希少疾患、難治性がん、iPS細胞千葉大学の研究者らは、臨床研究の中でも特に、免疫関連疾患を抱えた患者を対象とした研究において、長年にわたり優れた実績を残してきた。
基礎免疫学や病態生物学の分野においても多くの重要な突破口が開かれてきた。一方で、基礎研究と臨床研究の二つの分野を結びつける、いわゆる橋渡し研究では、目立った実績がなかった。
医学研究院教授の本橋新一朗はこの問題を解決したいと考えている。本橋は本研究プロジェクトの推進責任者でもあり、研究室での発見を臨床現場に適用するために必要な臨床支援と研究資源の提供を目指している。
本橋らは特に、現在効果的な治療選択肢がない、2つの疾患領域に注目してきた。1つは頭頸部腫瘍などの致命的ながん、もう1つは、日本で各疾患の患者数は5万人未満ではあるものの、 全体で人口の約10%に影響を及ぼしている希少疾患である。
二方向からのアプローチ
本橋が所属する腫瘍免疫学チームは、千葉大学が保有する細胞免疫療法の専門知識を活かし、腫瘍に対する治療法を開発しようとしている。具体的には、腫瘍を破壊するナチュラルキラーT細胞を用いて、腫瘍免疫微小環境を望ましい方向に改善できる併用療法について研究している。さらに、これらの治療法に対して、個々の患者がどのように反応するかを予測できるバイオマーカーを特定しようとしている。
三澤園子が率いる希少疾患チームでは、黒田正幸や藤井克則らとともに、免疫調節剤や遺伝子治 療の手法などを用いて、免疫関連末梢神経疾患・遺伝性疾患の新規治療法開発に取り組んでいる。また鈴木浩太郎や平原潔は、自己免疫疾患・組織 線維症の動物モデルを用いた病態解析から新規治 療法開発を目指している。さらに江藤浩之は、研究協力者の整形外科学の大鳥精司や折田純久、志賀康浩、形成外科学の三川信之らとともに、iPS細胞から誘導する全く新しい多血小板血漿を用いた創傷治癒方法の開発を行っている。また黒田は 腫瘍免疫学チームと協力し、自身の研究対象である遺伝性代謝疾患に加えて、がん治療に応用でき る遺伝子導入脂肪細胞技術の開発も行う
今後両チームが研究上の経験や技術プラットフォーム、製造施設を共有していくことが重要になってくる。「各疾患の治療ノウハウをネットワーク内で共有することによって、創薬が加速されることが期待できます」と本橋は話す。さらに両チームでは、臨床研究中核病院としての支援体制からの協力も得ることができる。千葉大学医学部附属病院は医療法に基づく臨床研 究中核病院に承認され、花岡英紀、石井伊都子を中心に、基礎医学を臨床応用する支援体制を 整備している。
病院からのこうした支援には、知的財産・ プロジェクト管理・臨床試験設計や、橋渡し医療の使命を果たすために必要な各ステップに関する相談サービスが含まれる。「私たちの最終的な目標は、多種多様な希少・難治性疾患に適用できる治療者集団を形成することです」(本橋)。本橋は、チームによって創り出されたインフラ が、糖尿病や肺がんなど、一般的な疾患の新たな治療法開発に利用される日が来ることを予見している。
現在までの研究の進捗を見ると、本橋らの夢は実現に近づきつつあり、研究成果も広く認められてきている。本研究プロジェクトでは、がん免疫療法や希少疾患分野における世界屈指 の専門家たちと既に協力関係を構築し、また、日本の製薬会社と協力して、共同研究プロジェクトが進んでいる。
(CHIBA RESEARCH 2020より)Members
推進責任者
研究者名 | 役職名 | 専門分野 |
---|---|---|
本橋 新一郎 | 教授(医学研究院) 研究統括 |
腫瘍免疫学 |
中核推進者(学内研究グループ構成員)
研究者名 | 役職名 | 専門分野 |
---|---|---|
花岡 英紀 | 教授(医学部附属病院) | 内科学 |
石井 伊都子 | 教授(医学部附属病院) | 薬物治療学 |
黒田 正幸 | 特任准教授(医学部附属病院) | 微生物学、遺伝子治療学 |
平原 潔 | 准教授(医学研究院) | 免疫学、呼吸器内科学 |
三澤 園子 | 准教授(医学部附属病院) | 神経内科学 |
鈴木 浩太郎 | 准教授(医学研究院) | 膠原病、アレルギー学 |
江藤 浩之 | 教授(医学研究院) | 幹細胞生物学、血液学 |
研究内容
受賞歴
平原 潔 | (2017)「2017 Seymour and Vivian Milstein Young Investigator Award」 |
平原 潔 | (2017)「2017 Milstein Young Investigator Awards」 |
研究成果報告(2016年〜2018年)
難治性疾患の病態解明が分子・遺伝子レベルで詳細に進み、動物実験による解析結果から数多くの治療コンセプトが提示され、橋渡し研究(TR)が行われている。さらに多様性に富み個人差が著しいヒトにおいては、動物実験データからの単純な演繹のみでは新規治療開発に有用な知見を得ることは困難で、臨床研究を行うことでしか得られない“治療コンセプトの証明(Proof of Concept, POC)”を積み重ねていくことが重要である。そこで、免疫関連の癌・神経・代謝性疾患・自己免疫疾患・感染症などに関する様々なシーズと新規治療法開発経験を有する我々の研究グループでは、医学部附属病院未来開拓センターや未来医療教育研究センターを中心に、希少・難治性疾患の制御を目指した探索的TRから検証試験までを積極的に行い、新たな治療コンセプトを発信し検証する革新的治療創生研究を行った。さらに様々な希少・難治性疾患に適応可能とする治療創生ネットワーク(Research and Development Network of Innovative Medicine for Immune Related Rare and Intractable Diseases, ReDenim)を形成し、研究を進めた(http://redenim-chiba.jp/)。
平成30年度末までの達成した主要な研究成果を以下に示す。