粘膜免疫・アレルギー治療学
病原体侵入やアレルギー反応の場となる粘膜バリア
――次世代型の粘膜ワクチンは、粘膜バリアにおける免疫力を高めることで、重篤な感染症やアレルギーを予防する。
研究キーワード:免疫学、粘膜免疫、アレルギー
我々の身体は、表皮と粘膜とからなるバリアを形成することで、外界から隔離されている。例えば、外界と接触する皮膚は表皮で覆われているし、食べ物の侵入により外界と接する消化管や、呼吸を介して外界と接する気道や肺は、粘膜で覆われている。このように外界との接触面に形成される‘粘膜バリア’は、強力かつ特別な免疫システムを備えることで、病原体の侵入から我々の身体を守る最前線として働いている。このような重要な働きをする粘膜バリアは、その機能の崩壊により、様々な疾病の発症をもたらす。
例えば、何らかの原因により免疫システムの機能の低下が生じ、粘膜バリアが崩壊すると、細菌やウィルスなどの病原体が体内に侵入してしまう。ー方、免疫システムが過剰に反応してしまった場合には、花粉症やぜん息のようなアレルギー疾患、さらには自己免疫性炎症性腸疾患などの免疫疾患を発症する。では、‘粘膜バリア’は、どのようにして適切な免疫応答を起こすように制御されているのだろうか。
その疑問に応えるため2016年に設立されたのが、本研究プロジェクトの拠点「国際粘膜免疫・アレルギー治療学研究センター」である。この研究センターでは、千葉大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)とが共同プロジェクトを立ち上げ、太平洋をまたいで研究を進めている。粘膜バリアにおける免疫応答の基礎研究から、疾患治療に向けた応用研究、感染症やアレルギー性疾患、炎症性疾患を予防する次世代型ワクチンの開発研究を行っている。
現在、一般的に使用されているほとんどのワクチンは注射により投与される。しかし、感染性病原体の体内への侵入は粘膜バリアを介して起こることから、一般的な注射ワクチンによって誘導される免疫応答は、実際の感染によって誘導される免疫応答とは‘反応の場・経路’が異なってしまっている。当プロジェクトの推進責任者である医学研究院教授の中山俊憲は、「既存の注射型ワクチンは、感染による症状悪化を防ぐことはできますが、感染に対する予防という意味での効果はありません」と指摘する。
基礎研究から臨床応用へ
現在、このような重要な機能を有する粘膜バリアに着目し、新たな治療法開発に向けての研究が進んでいる。しかし実用化に向かうためには未だ多くの課題が残されている。まず、粘膜免疫を司る粘膜バリアの構造、免疫システムは未解明な部分が多い。そのため、同研究センターの研究者たちは、臨床応用を進めながらも、粘膜バリアの実態を明らかにすべく、基礎研究に精力的に取り組んでいる。
千葉大学副学長および大学院医学研究院長・医学部長でもある中山は、「研究成果をベッドサイドへ速やかに届けるために、未来医療教育研究機構による研究支援体制の強化を進めています」と話している。現在、同研究センターでは、3つのプロジェクトが進行している。
(1)清野宏が率いるグループでは、微生物感染によって引き起こされる疾病に対する粘膜免疫応答の基本メカニズムの研究に取り組んでいる。
(2)中山が率いるグループ(小野寺淳、木村元子、小原收ら)では、独自に発見した難治性アレルギー疾患を引き起こす病原性T細胞に注目し、これまで治療法のなかったアレルギー疾患に対する新たな治療法の開発に取り組んでいる。
(3)中島裕史、岡本美孝、下条直樹らの臨床研究チームでは、花粉症などのアレルギー疾患の根治治療に結びつく免疫治療ワクチンの開発研究を進めている。
Members
推進責任者
研究者名 | 役職名 | 専門分野 |
---|---|---|
中山 俊憲 | 学長、教授(医学研究院) 研究統括 |
免疫学、アレルギー学 |
中核推進者(学内研究グループ構成員)
研究者名 | 役職名 | 専門分野 |
---|---|---|
中島 裕史 | 教授(医学研究院) | 臨床アレルギー学 |
清野 宏 | 特任教授(医学研究院) | 粘膜免疫学 |
小原 收 | 特任教授(未来医療教育研究機構) | 免疫インフォマティクス |
木村 元子 | 教授(医学研究院) | 免疫学、アレルギー学 |
小野寺 淳 | 准教授(グローバルプロミネント研究基幹) | 免疫学、アレルギー学 |
倉島 洋介 | 准教授(医学研究院) | 粘膜免疫学 |
須藤 明 | 准教授(グローバルプロミネント研究基幹) | 免疫学、アレルギー学 |
研究内容
受賞歴
小野寺 淳 | (2018)「第三回千葉大学医学部スカラーシップ指導者賞(第11回ちばBasic & Clinical Research Conference)」 |
木村 元子 | (2017)「第9回千葉医学会賞(千葉医学会)」 |
倉島 洋介 | (2017)「第46回日本免疫学会学術集会ベストプレゼンテーション賞(日本免疫学会)」 |
倉島 洋介 | (2017)「平成29年度ビフィズス菌センター研究奨励賞(公益財団法人日本ビフィズス菌センター)」 |
植松 智 | (2017)「Highly Cited Researchers 2017」 |
木村 元子 | (2016)「2016年度 ベストプレゼンテーション賞(日本免疫学会)」 |
植松 智 | (2016)「Highly Cited Researchers 2016」 |
プレスリリース
2018年6月27日 | ぜんそくの重症化に有効な治療法の鍵を発見 |
2018年2月22日 | 腹部放射線治療後に起こる腸線維症のメカニズムを解明 |
2016年9月12日 | ぜんそくなどの重症アレルギー疾患のメカニズムを解明 抗体の開発で革新的治療法に期待 |
2016年5月19日 | 「病気にかからない予防ワクチン」の開発に着手 千葉大学が、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校に、共同研究拠点を設置 |