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安全な3次元テレビの実用化に一歩前進

専用計算機で高画質なホログラフィの投影に成功

千葉大学グローバルプロミネント研究基幹の「次世代3次元映像計測技術の創成と応用」グループ(代表:下馬場朋禄准教授)は、独自の計算機システムを改良し、より高画質なホログラフィの投影に成功しました。これにより、既存の3次元映像の投影方式で懸念されている子どもの健康被害を避けるための「ビデオホログラフィ」の可能性を示しました。今回の研究成果は、光学の専門誌のひとつであるOptics Express9月号に掲載されました。 

A 3D holographic image from a video projected by HORN-8, a special purpose computer developed by Tomoyoshi Ito’s research team.

図1: 専用計算機HORN-8により投影された3次元ホログラフィ。

ホログラフィとは、3次元像を記録・再生する技術です。天文学者であり、計算機学者でもある伊藤智義教授が率いる研究チームでは、ハードウェアによる高速化が試みられてきました。HORNと呼ばれる専用計算機の開発は、同研究チームにて1992年より開始され、改良が進められてきましたが、光の強度を調整する計算方式を採用した振幅型のHORN-8は、世界最速と認められ、2018年4月17日に国際科学誌Nature Electronicsに掲載されました。今回、新しく開発された位相型のHORN-8では、光の位相を調整する計算方式を採用したところ、より高画質な3次元動画ホログラフィの投影に成功しました。

ホログラフィの歴史は古く、レーザーが発明された1960年以降、多くのレーザーホログラム作品が製作されてきました。しかしながら、こうしたアナログ技術をデジタル化し、3次元の動画として再生する電子ホログラフィでは、1秒あたり10フレーム以上、1フレームあたり1兆画素を超える計算処理能力が必要とされ、ソフトウェアとともにハードウェアの開発が課題となっていました。

「情報工学の知見だけでなく、電気電子工学の技術を取り込み、さらに計算機科学や光学の手法を学びながら、動画ホログラフィを実現するための高速計算機の開発を進めてきました」と伊藤教授は振り返り、「25年以上続けてきた研究の学際性と、歴代の学生たちの努力が今回の成果に繋がった」と述べました。

今回の実験を主導した、伊藤研究室の元学生で、現在首都大学東京に所属する西辻崇助教は「HORN-8は伊藤教授を筆頭に、多くの人の知恵、技術、努力がもたらした成果です。今後もHORNはもちろんのこと、様々な角度から実用化に向けた研究を進めていきたいです」と話しています。

最新型の位相型HORN-8では、FPGAボード(読み書き可能な集積回路)に8個のチップを搭載し、チップ同士を互いに通信させない計算手法により、処理速度が頭打ちになる問題を回避しています。この手法により、チップの数に比例して計算処理速度が高まり、より高画質な動画ホログラフィを投影できるようになりました。

HORN-8 has eight chips mounted on a Field Programmable Gate Array (FPGA) board.

図 2: HORN-8は、読み書き可能な集積回路(FPGA)に8個のチップを搭載している。

また、2次元のデータを3次元の立体に見せるためには、両眼視差・運動視差・輻輳角・焦点調節・経験による推測などの要因を適切に考慮することが必要とされますが、現在の3Dテレビで用いられている「両眼視差」による立体視では、眼のピントがあっている距離と脳が知覚する距離が異なるために健康被害が懸念され、子どもの使用は制限されています。日本の伊藤教授・下馬場准教授の研究チームをはじめ、世界各国で研究が進められている動画ホログラフィ技術では、これらの距離を等しくすることで、より多くの人々が安全に楽しめる3Dテレビの実現が期待されています。

論文情報

  • Takashige Sugie, Takanori Akamatsu, Takashi Nishitsuji, Ryuji Hirayama, Nobuyuki Masuda, Hirotaka Nakayama, Yasuyuki Ichihashi, Atsushi Shiraki, Minoru Oikawa, Naoki Takada, Yutaka Endo, Takashi Kakue, Tomoyoshi Shimobaba and Tomoyoshi Ito, “High-performance parallel computing for next-generation holographic imaging”, Nature Electronics, vol. 1, pp.254-259, April 2018, pp. 254–259, doi: doi.org/10.1038/s41928-018-0057-5 [Preprint Version is in Chiba University Repository: https://opac.ll.chiba-u.jp/da/curator/105754/]
  • Takashi Nishitsuji, Yota Yamamoto, Takashige Sugie, Takanori Akamatsu, Ryuji Hirayama, Hirotaka Nakayama, Takashi Kakue, Tomoyoshi Shimobaba, and Tomoyoshi Ito, “Special-purpose computer HORN-8 for phase-type electro-holography”, Optics Express Vol. 26, Issue 20, pp. 26722-26733, September 2018, doi: doi.org/10.1364/OE.26.026722

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お問合せ

田中紗織
千葉大学グローバルプロミネント研究基幹 広報担当
Saori.Tanaka@chiba-u.jp
043 290 3022

千葉大学グローバルプロミネント研究基幹とは

本研究基幹は、国際的に卓越した研究を強化するとともに、次世代を担う研究リーダーを育成する組織として、2016年に千葉大学に設立されました。全学の研究資源を集約し、多様な研究分野を包括的に支援する試みは、国内の大学でも独自のシステムであり、総合大学としての本学の強みを生かしたものです。現在、ニュートリノ天文学や終末期ケアに関する研究を初めとする約20の研究プロジェクトの活動を支えており、国際研究拠点の形成、さらには社会変革に資する研究成果の創出を目指しています。