2021年6月10日
IceCube実験 探索開始から10ヵ年の歩み
光の粒子である光子に次いで、宇宙で最も豊富に存在する粒子、ニュートリノ。
ニュートリノは、誕生後、ほとんど吸収されることなく発生源から真っ直ぐに進むため、謎めいた宇宙で何が起こっているのかを知らせるメッセージの伝達者として理想的だと考えられている一方で、吸収されることなく真っ直ぐ進むというその特性ゆえ、検出が非常に難しいという特徴をもっています。
この宇宙ニュートリノをとらえ宇宙の謎を解き明かすため、IceCube国際共同実験が計画され、ちょうど10年前の5月、南極点の氷河下の約1.6キロメートルの立方体の氷の中に、光検出器が六角形のグリッド状に埋設され本格的な運用を開始し、このたび10周年を迎えました。
千葉大学 吉田滋教授がセンター長を務めるハドロン宇宙国際研究センター(ICEHAP)は、このIceCubeプロジェクトに日本から唯一参画し、IceCube実験による宇宙ニュートリノ観測において様々な研究成果を世に送り出してきました。GP基幹においても重点研究部門の一つであり、千葉大学を代表する研究プロジェクトの一つとして、今後も更なる研究成果が期待されます。
これまでの代表的な研究成果
解析で検出した2つの事象のうちの一つである上向きのトラック事象。2.6PeVのエネルギーがIceCube検出器内に放出された。
従来の宇宙線の生成モデルが覆るか!?
幽霊粒子ニュートリノの観測から新たな発見(2016年12月2日発表)
IceCube実験によって取得された7年分のデータを解析し、超高エネルギーニュートリノ探査を行いました。
その結果、宇宙からくる超高エネルギーニュートリノの数がこれまでの予想より少ないことを発見しました。この発見は、宇宙の高エネルギー物質の放射(UHECR)やその発生源となる天体(UHECR起源天体)の 正体について、従来の定説を覆すものでした。
ニュートリノ放射起源天体同定のきっかけとなったニュートリノ事象「IC170922A」©IceCube Collaboration
史上初、宇宙ニュートリノとγ線による ニュートリノ放射源天体の同定に成功(2018年7月13日発表)
南極点アムンゼン・スコット基地で行われているニュートリノ観測実験IceCube(アイスキューブ)に より、2017年9月に宇宙ニュートリノ事象「IceCube-170922A」が検出され、その到来情報を元に追 観測を行いました。その結果、巨大ブラックホールを持ち非常に強いγ線を放つブレーザー天体 TXS 0506+056を確認し、高エネルギーニュートリノ放射天体を初めて突き止めました。
IceCubeニュートリノ望遠鏡によって記録された、2016年12月の高エネルギーニュートリノ検出(イベント)を視覚化したもの。詳細なデータ解析により、このときにGlashow共鳴がおきたことが判明した。©IceCube Collaboration
1960年に予測された素粒子の標準理論「Glashow共鳴」を世界初検出(2021年3月11日発表)
千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターが参画するIceCube(アイスキューブ)実験は、2016年12月に宇宙から飛来した高エネルギーニュートリノの観測から、1960年に予測されたGlashow共鳴という現象を初検出しました。この検出により、素粒子物理学の標準理論を、人工的な加速器ではなく宇宙で加速された粒子で検証することが可能であることが実証されました。
さらに本研究では、これまで難しいとされていた高エネルギー宇宙ニュートリノの粒子と反粒子の区別を初めて可能としました。この識別手法が宇宙ニュートリノ発生機構の解明に新たな知見をもたらし、今後のニュートリノ天文学で重要な役割を果たすことが期待されます。