吉田滋教授と石原安野教授、仁科記念賞を受賞へ
2019年11月7日、本学の吉田滋教授(理学研究院)と石原安野教授(グローバルプロミネント研究基幹)が優れた業績を挙げた物理学者を表彰する仁科記念賞を受賞することが仁科記念財団より発表されました。対象となった業績は、「超高エネルギー宇宙ニュートリノの発見」です。
仁科記念賞は日本の現代物理学の父とされる仁科芳雄博士の功績を記念して1955年に創設されて以降、物理学分野において卓越した業績を挙げた研究者を表彰してきました。これまでの受賞者からは、6名のノーベル物理学賞受賞者を輩出しています。
吉田教授と石原教授は、南極でのニュートリノ観測装置IceCubeでの国際共同実験に計画当初から参画し、姿の見えない素粒子ニュートリノを通して、宇宙のメカニズムや起源を探求してきました。
2011年に完成したIceCubeでは、南極点直下の氷の中に5,160個の光検出器が埋め込まれ、宇宙から飛来するニュートリノを観測しています。吉田教授と石原教授は、エネルギーが十分高いニュートリノであればどのような種類のものでも確実に捉えることができる解析手法を構築しました。その手法を用いて、石原教授は2010年から取得された膨大なデータを用いて解析し、超高エネルギーのニュートリノが引き起こした事象2例があることを発見しました。これは、人類が初めて見る超高エネルギーのニュートリノ事象の発見でした。
石原教授は、2012年に京都で開催された国際会議「ニュートリノ2012」で講演を行い、この成果が初めて世界に公表されました。また、石原教授が責任著者としてまとめられた論文は、2013年にPhysical Review Letters誌に掲載され、編集者が選ぶ重要論文にも選定されました[1]。
その後、超高エネルギー宇宙ニュートリノの飛来方向を突き止めるための新たなシステム構築により、ニュートリノを即時同定して情報発信することで、世界中の天文施設にて追観測する世界的連携が可能になりました。
このマルチメッセンジャー天文学の国際共同プロジェクトの中で、吉田教授は、超高エネルギー宇宙ニュートリノの即時同定解析を主導しました。即時同定解析のアルゴリズムは、石原教授がそれまでの超高エネルギー宇宙ニュートリノ探索のために開発してきたものが出発点となりました。
新たな発見の契機となったのは、2017年9月23日の早朝、宇宙ニュートリノ事象「IceCube-170922A」がIceCubeで検出されたことでした。ニュートリノの飛来方向に、通常より明るく輝くブレーザー銀河「TXS 0506+056」が観測されると、吉田教授は解析を通して、ニュートリノがこの天体に由来するものとする証拠の一つを示しました。最終的に他の解析結果と合わせ、ブレーザー銀河「TXS 0506+056」が超高エネルギーニュートリノを放つ天体として史上初めて同定されました。
この研究成果は2018年にScience誌にて発表され、同誌が選ぶこの年の10大成果にも選定されました[2]。こうした一連の研究成果は、マルチメッセンジャー天文学の幕開けとして、国内外で高く評価され、今回の受賞につながりました。
今回の受賞について、両教授は以下のように述べています。
吉田滋 教授「仁科記念賞のような栄えある賞には縁遠い学者だと思っていました。受賞につながった成果を出せたのは、多くの優秀な仲間に恵まれたおかげです。こうした仲間達と今回の受賞を分かち合いたいと思います」
石原安野 教授「これまでの業績を評価して頂き、このような名誉ある賞を頂けるということは、今後もニュートリノ天文学研究を進めていく大きな励みになります。また女性では二人目の受賞ということも伺い、益々物理学の多様性を広げていくためにも頑張ろうと気持ちを新たに致しました」
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論文情報
[1] “First Observation of PeV-Energy Neutrinos with IceCube”, IceCube Collaboration, Phys. Rev. Lett. 111, 021103, (2013).[2] “Multimessenger observations of a flaring blazar coincident with high-energy neutrino IceCube-170922A”, The IceCube collaboration et al., Science 361, eaat1378, (2018).
お問合せ先
千葉大学大学院理学研究院附属ハドロン宇宙国際研究センターtel: 043-290-2763
e-mail:icehap[a]ml.chiba-u.jp([a]を@に置き換えて下さい)
担当 高橋